中国語学習の最適化(上):「ペラペラ」の誤謬

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本項からはリスニング・スピーキング・リーディング・ライティング及び発音・文法・語彙という語学主要項目について、中国語学習法を構築する際に注意すべきいくつかのポイントを中心にまとめてみたいと思います。

半ばよしの「発音」だって入門初級限定

中国語の学習プランと言ってもピンとこない方も少なくないかもしれません。適切な比喩かどうかはわかりませんが、逢えて喩えるなら保険による人生設計みたいなものでしょうか。

20代で入っておいた方がよい保険と40、50代で必要になる保険はずいぶん異なるものです。独身時代、結婚後、出産後、子供の独立後、老後......それぞれの場面で必要になる保険と必要のなくなる保険が存在します。

中国語の学習プランも似たようなもので、各学習項目においても入門初級レベルでは至極重要なのに、上級レベルではまったく必要なくなるものもあります。

例を出した方がわかりやすいですね。例えば「発音」。中国語においては「発音よければ半ばよし」という格言まで生まれるほど重要な項目とされますが、入門初級段階ではうるさいほど重視されるこの項目も上級レベルではまったく音沙汰なしです。

発音に重大な欠陥がある場合は上級者でも矯正する必要はありますが、たとえ訛りがあったとしても、問題なく通じるレベルにある場合は、もはやいちいち矯正する必要は基本的にはありません。

もちろんネイティブスピーカーの発音に憧れ、多大な労力をつぎ込んでもそれに近づけたい、という話だったら意地で矯正しても良いのですが、実用面から考えればその必要はまったくないのです。

そんなことに費やす時間があるのなら、語彙力をさらに広げたり、語感を磨いたり、表現力を高めたりする方がより実用的です。究極的な話、発音は言葉を伝達する媒体でしかなく、たとえ訛っていようが通じるレベルに達していればそれで用は足りるのです。

喩えて言えば60点でも100点満点でも合格であることには変わりない、ということです。取得できる単位は同じなのです。

重要性が変わらなくても学習法は変化する

入門初級レベルから上級レベルまで一貫して一定の重要性を持つものもあります。「語彙」がその代表です。

ただ、これも学習上では大きな違いが出てきます。重要性は変わらなくても、学習方法はレベルによって大きな違いがあるからです。

入門初級レベルの語彙は頻出度の高いものが中心になるので、単語帳などを作って暗記するよりも、多読多聴で繰り返し語彙と接し、より自然な形で語彙を覚える方が楽で、且つ習熟度を高めることができます。

一方で中上級レベルの語彙、特に上級レベルのものは頻出度が低いものばかりとなるので、多読多聴で繰り返し語彙と接触する方法は通用しにくくなります。

このレベルの語彙は単語帳などを作って無理やり詰め込んだり、会話や作文の中で意識して使うことで体得していくことになります。

このように、重要性そのものは変わらなくても、実践上では学習方法に大きな相違が出てくるのです。

相関性を持つ各項目

また、各項目はそれぞれに一定の相関性を持っています。

例えば、リスニング力とスピーキング力は密接な関係を持っています。基本的に、聞き取ることができないものは話すことはできません。リーディング力とライティング力も同様の関係性を持っています。読めない人は書けないのです。

この相関性はそのまま学習に応用することができます。リスニングを行うことでスピーキング力を、リーディングを行うことでライティング力を高めることができるからです。

また、前項「インプット学習とアウトプット学習」で解説した「インプット」と「アウトプット」の区分けでも一定の相関性を認めることができます。ライティングによって会話力を伸ばすことができるのはこのためです。

「ペラペラ」の誤謬

逆に考えると、ある特定の能力が極端に低い場合、全体の能力がそれに足を引っ張られて低くなってしまうケースもあります。

いい例が日本人の英語ですね。日本人は英語下手とされますが、これは日本の英語教育が、きわめてバランスを欠いたものであることに起因します。

最近は改善されてきているみたいですが、日本の英語教育は文法読解翻訳に偏重しているため、リスニング力・スピーキング力が低く、それが全体の足を引っ張っています。

文法読解翻訳に偏重しているためある程度の読み書きはできますが、会話はほとんどできません。だから「6年も勉強してきたのに何も聞き取れないし話せない」という英語苦手意識を持つ国民を大量生産してしまっています。

その結果生まれたのが「ペラペラ」という表現です。外国語ができる人を喩えて「●●語ペラペラ」といいますね。この言葉で修飾される能力はスピーキングです。「ペラペラ話す」と言うことはできますが、「ペラペラ書く」とは言いません。みんな会話ができないから、会話ができることをもって外国語ができるとみなしてしまっているのです。

会話ができても読み書きができないというケースもあるはずですが、それでもその人は「ペラペラ」です。読み書きができなくても、その外国語の達人とみなされてしまう訳です。どう考えてもおかしいですよね。

会話するのに必要となるもの

外国語はファッションである。カッコよければいい、という学習者の場合はそれでもいいでしょう。「ペラペラ」であれば良いのですから。

では、「ペラペラ」になりたいのなら、スピーキングの練習だけすれば良いのか、というと、残念ながら必ずしもそうとは限りません。

スピーキングを伸ばすには、まずリスニングを行う必要があります。これは相関性云々というよりも、そもそも会話はキャッチボールなのですから、聞き取れないことには会話自体が成り立たないので、リスニング訓練が必須になるのです。

耳の遠いお年寄りと会話しているのではないのですから、何回話しても聞き取ってもらえない会話相手とおしゃべりしようなどと言う奇特な人はそうはいません。ボールをキャッチできない人とキャッチボールをする気になりますか。

では、会話力を構成するスピーキング力とリスニング力を高めるには、何が必要になるのでしょうか。

まず考えられるのが発音力ですね。リスニングにせよスピーキングにせよ、音がらみの項目なので、発音は無視できません。

語彙力も重要です。音が聞き取れてもそれが意味するものがわからなければ相手の発言を理解することができませんし、自分の意思を表現するにも語彙を知らない限り表現のしようがありません。

また、正確に意思を表示するには文法力は不可欠です。挨拶ぐらいならフレーズ丸覚えでいいのですが、それ以上のものを求めるのならば、文法なしではまともな会話にはなりません。

これら語彙力や文法力を高めるには、リスニングやスピーキングだけでは非効率で、リーディングやライティングを交えた方がより効率的効果的に習得できます。

特にライティングは、正確な会話発信能力を身につけるのに大きな力を発揮します。ライティングなしで上級スピーキングはあり得ないと言っても過言ではありません。

このように、会話限定というように目的とする習得項目が限定されている場合でも、それを効率的に身につけるには、一見関係なさそうな項目を学習プランの中に取り入れていく必要があるのです。総合的な中国語力を身につけたいと考えているのなら尚更のことでしょう、

『中国語学習の最適化(下):学習方法カスタマイズ論』に続く......