日本語と中国語の「水」と「温感」のお話

暑い日が続いています。冷たい物が美味しいこの季節、日本の実家では冷たい麦茶をガブ飲みしていたものですが、中国で暮らし始めてからはほとんど飲む機会がなくなってしまいました。中国人は体を冷ますのを忌避するので、夏だからと言って冷蔵庫に麦茶をスタンバイさせておくような習慣はありません。ビールですら常温で飲んだりしますからね。

飲み物と言えば、中国に来て飲み始めたもので最も衝撃的だったのは「白湯」でした。これは我が家だけの話かもしれませんが、日本に居た頃は、白湯なんて病気になって薬を飲む時ぐらいしか飲みませんでした。基本的にお茶一本。水はなんたらかんたら温泉水というミネラルウォーターを取り寄せて飲んでましたけど、それも冷蔵庫の中です。

それが当たり前だと思い込んでいたので、お茶の国である中国で、みなさんフツーに白湯を飲んでらっしゃるのを見て、白湯って普通に飲むものなんだぁ、と素直に感心した次第です。もうかなり昔の話ですけどね。

これと似たような例では「おかゆ」なんかもそうですね。日本では風邪を引いて熱があるときぐらいしか食べなかったのですが、中国ではフツーに食します。始めは違和感がありましたが、慣れてしまうとなぜ日本では病気の時にしか食べなかったのだろうか、と感じる次第。もちろん、これも我が実家ルールに過ぎませんが。

「白湯」と“白汤”

水の話に戻ります。中国では「白湯」は“白开水”といいます。“白”は色を表すのではなく、「何も加えないでそのままの」という意味を持ちます。「ただの沸かした水」という意味です。日本語の「白湯」の「白」も同じような意味だと思うのですが。

「湯」は日本ではお湯や風呂水のことを指しますが、中国語の“汤”はスープを連想するので要注意です。古中国語には日本の「湯」と同じ意味がありますが、現代中国語では“赴汤蹈火”のような成語を除いて、この意味で使われることはありません。このようなパターンの語彙は結構ありまして、中国の古語辞典を引くと、現代日本語ではそのまま残っている意義が載っていたりします。

ちなみに中国語で“白汤”というと、一般的には白身の肉を煮出した白い色のスープや、調味料を加えていない野菜スープを指します。そんな訳で中国人が日本の銭湯なんかを目にすると、スープ専門店だと勘違いしてしまうのです。「“汤”は人が浸かるものだ」、と言ったら驚くこと間違いなしです。

“开水”と“烧水”

“白开水”から“白”を取って“开水”とすると、いわゆる日本語の「熱湯」になります。中国語で“热汤”と言えば、もうご察しがつくものと思いますが、「熱いスープ」の意味になります。「動詞“热”+名詞“汤”」と読めば「スープを温める」の意味に。“开水”も「水を沸かす」と読むことができますが、あまり使われません。動詞に“烧”を当てて、“烧水”と言うことが多いです。もちろん、地方によっては“开水”がスタンダードなところもあるかと思いますが。中国語の“开”にはいろいろな意味があり、液体が沸騰することも表しますが、この意味ではあまり他動詞として使うことはないようです。自動詞用法で“水开了。”ということはありますが。これで「お湯が沸いた。」の意味です。“烧”と連用して結果補語として用い、“烧开水”という形で用いることもできます。

“水”がなくなるのはお互い様

“白开水”は冷まして飲むことができるようになったものですが、温度はかなり高いものから常温のものまで幅広くカバーします。日本では飲水を提供する場合冷たい水を出すものですが、中国ではその限りではありません。というか、夏の熱い日でもなければ、お湯が出されるのが普通です。中国人は体を冷ますのを忌避するので、水は熱いものを飲むのが基本なのです。常温まで覚ましたものを明示したい場合は“凉白开”と言います。“水”がなくなってしまうんですね。まぁ、日本語でも「お冷や」と言いますからこれはお互い様ですが。

“凉水”というと、ただの冷たい水になります。煮沸させていない生水を指すことが多いのですが、飲用水を指すこともあります。日本語と同様に“冷水”ということもありますが、“冷白开”という表現はありません。方言では不明です。ちなみにデカイ辞書を引くと“寒水”という表現もあるのですが、未だかつて接触したことはありません。ちなみのちなみに日本語にも「寒水」という語彙があり、「冷たい水」の意味を持つのですが、こちらもめったに使われませんよね。

中国語でも“冷水”と同様に温度に合わせて“温水”とか“热水”とか言います。「氷水」は“冰水”で、これらは日本語と語感もほぼ同一、イコールで理解してOKです。

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