【分析レポート】CANON wordtank V923/V823

コンテンツ・機能情報

※参照:キヤノン・ホームページ

コンテンツ一覧は「中国語電子辞書比較表」を、標準機種・上位機種及び前モデルとの差分についてはキヤノン ワードタンク 歴代中国語モデルまとめを参照のこと。

解説

中国語電子辞書の技術革新を引っ張ってきたキヤノンワードタンクシリーズ、2009年中国語モデル新バージョンがついにお目見えした。毎回の事ながら、ライバルのカシオに遅れること約二ヶ月。先手を打たれ市場を食われることを恐れないwキヤノンの新作を見せていただこう。

ここに注目!①……「文法用例辞典と類義語活用辞典を追加」(後者は上位機種のみ)

新バージョンでは新たに東方書店の『中国語文法用例辞典』と講談社の『中国語類義語活用辞典』が追加されている。『中国語文法用例辞典』は中国商務印書館の定番中国語学習書籍『現代漢語八百詞増訂本』を完訳したもので、学習者にとってわかりにくい「虚詞」(機能語)を中心に、用法を詳しく解説したものだ

また、『中国語類義語活用辞典』はその名の通り類義語辞典である。語感、すなわち語彙の持つ微妙なニュアンスの違いを掌握することは中上級レベルにおいて主要課題となるが、その語感を身につけるための大きな武器となる辞書であろう。

これら機能型辞書の存在は大型総合辞書ほど目立たないが、中国語学習、という観点から言えば非常に大きな存在となる。

各社中国語モデルにおいて大型辞書がほぼカバーされている現在、電子辞書の壁を破る新たな一歩を踏み出したと言って良いだろう。

ここに注目!②……「強力な発音・音声関連機能」

ネイティブの発音に合わせてテキストが表示される「オーディオブック機能」や、その名の通りディクテーション学習を行うための「ディクテーション機能」、外部からMP3を取り込んで再生する「MP3再生機能」、そして自分の発音を録音してネイティブ発音との聞き比べができる「発音比較機能」は素晴らしいの一言。このあたりの機能は、電子辞書というよりも、中国語学習機という方が正しいのかもしれない。

ここに注目!③……「強力な検索機能と単語帳機能」

ピンインがわからなくても辞書を引ける「手書き入力検索」他、複数の辞書を横断的に検索できる「複数辞書検索」など、多様な検索機能を搭載している。また、引いた単語を単語帳に登録することができる。

ここに注目!④……「充実したメイン中国語辞書と英中中英辞書」

日本最大の中日辞典『中日大辞典 増訂第二版』と中国で最も普及している国語辞典『現代漢語詞典』を収録。後者は独占収録である。また、『オックスフォード英中/中英辞典』も収録している。

総括

今バージョンの売りは文法用例辞典と類義語活用辞典が追加されたところであろう。一見地味だが、使ってみればそのありがたみがわかると思う。こういう辞書は意外と大切なのである。

ただ、これ以外については、先代の「V903」とそれほど変わらない。先代は先々代に比べ多くの点で改良と新たな突破が見られたが、それに比べると今回は地味なバージョンアップになっている。

また、先代で追加された方言コンテンツが消えてしまっている。大方の学習者には必要のないコンテンツではあるが、業界初となったコンテンツだっただけに、少しさびしさを感じる。

全体的な印象としては、ライバルのカシオが猛烈な追い上げを見せた分、ちょっとかすんでしまったかな、という感じがする。まぁ、それでも圧倒的なコンテンツと機能を搭載していることには間違いないのだが。

特に発音音声関連の機能は相変わらず素晴らしいの一言。ディクテーション機能はリピーティングや近年人気のシャドーイング学習にも使える。

目に見えて変わった点と言えば、標準機種と上位機種の二頭立てになったところか。この点について言えば、ライバルのカシオが採用している路線に合わせたことになる。ユーザの視点から見れば、購入の選択肢が増えたことになるので、歓迎して良いとは思うのだが、選択肢が増えるとその分選別の悩みも増えることとなる。これはワガママな悩みかもしれないが。

標準機種「V823」は入門初級向け仕様、ということなのだが、中級以降向けの中中辞書『現代漢語詞典』が収録されている。ということは、コンテンツ的には、上位機種「V923」との差がそれほど大きくない、ということを意味する。重要コンテンツに限って言うのならば、上級者向けの総合辞書である愛知大学の『中日大辞典』と、今バージョンから新たに追加された講談社の『中国語類義語活用辞典』が収録されていないだけなのである。

もちろんこれらコンテンツは中上級者にとって有意義なコンテンツであるのだが、少なくとも、初級レベルの学習者が、中中辞書欲しさにちょっと背伸びして上位機種を購入する必要性がないことを意味する。お買い得な標準機種で足りる初心者と、上位機種を買わざるをえない中上級者の狭間にある初級レベルの学習者にとって、これは歓迎されるべき仕様なのではないだろうか。

また、カシオでは上位機種のみの収録となっている英中中英辞書も標準機種で収録している。これも英語習得者にはうれしい仕様であろう。

正直な話、これで一万円の価格差がつくのはちょっと……という感じがする。

逆に言えば、今バージョンの標準機種は非常においしい存在になっているということだ。ライバルのカシオでは、上位機種限定コンテンツである中中辞書と英中中英辞書が収録されているのだから。

気になるのは、なぜこんな事態になっているのか、ということ。もともと、初心者向けとエキスパートモデルに分かれていた先々代の2006年版においても、初心者向けモデルに中中辞書と英中中英辞書が収録されていたので、それをそのまま継承した、と考えることもできるが、これに加え、おそらくは中国市場を意識していることも影響していると思われる。

先代の2008年版は標準機種と上位機種という二頭立てではなく、「V903」という事実上上位機種一本のラインアップだったのだが、「V903」は後に「V903c」という、中国語版取扱説明書が充実したモデルが追加でリリースされている。

そして、今バージョンでは日本語学習者向けの機能強化が行われている。このレポートは中国語学習の視点からまとめているので記載しなかったのだが、日本の国語辞書である『新明解国語辞典』について、日本語見出し語発音が業界最多となる約75,000語を収録している。そう、狙うところは中国人日本語学習者層。中国の国語辞書である『現代漢語詞典』と中国人にとっての英語辞書である『オックスフォード英中中英辞典』が収録された今、ワードタンクは中国人向けの電子辞書としても十分なコンテンツを備えているからだ。

となると、たとえ標準機種であっても『現代漢語詞典』『オックスフォード英中中英辞典』は外せなくなる。これを外したら中国人向けには売り物にならないからだ。これが標準機種であるにもかかわらず中中辞書と英中中英辞書が収録されている理由だと思われる。キヤノンの目は中国市場に向き始めているのだ。我々日本人中国語学習者にとって、この傾向が吉と出るか凶と出るか……神のみぞ知るところだろうか。

これらの理由から、標準機種は実勢価格次第では非常にお買い得なモデルとなる。なにせ発音音声関連の機能は抜群である。これから中国語を始める学習者ならこれで決まりかもしれない。

購入のヒント

電子辞書は語学への初期投資のなかで、比較的大きな割合を占める投資項目となる。となれば、少しでも安く買いたいと思うのが人情というもの。次のページで中国語電子辞書を安く買うための手引きを公開しているので参照のこと。

「中国語電子辞書購入の手引き」

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