実は簡単な第三声と実は難しい第二声のコツ

中国語の発音で最も特徴的なものが声調である。日本語では一部の方言を除き一音節内で音程の変化を起こさない言語なので、多くの日本人にとっては神秘的な存在だ。しかも、トーンが変わると意味が全く変わってくる。少し極端に言えば、声調を間違えることは母音を間違えるようなものだ。「か」と言うべきところで「き」と言ってしまったらどうなるか……日本人ならばその問題の深刻さをすぐにご理解いただけると思う。

幸いなことに、声調自体はそれほど難しいものではない。特に高く平たい音である第一声と、下がり調子の音である第四声はわかりやすいようで、これに躓く学習者はほとんどいない。逆に躓きやすいのが第三声で、「一度低く下がって途中から一気に上がる」という「変化球」に混乱させられる学習者が少なくないようだ。

本項では、多くの日本人が苦手とする第三声と、その実は最も厄介な声調である第二声を取り上げてみたいと思う。

第三声

低い音程を1とし、高い音程を5とする五段階で音の高さを表す声調表記方法では、第三声は「214」とされるように、第三声を「一度低く下がって途中から一気に上がる」と表現するのは間違ってはいないのだが、現実には多くの場合第三声はこのようには発音されない。

第三声において後半の「4」の部分が発声されるのは、文末や文の切れ目など音がはっきりと切れる部分に限られる。文中に出現する第三声は、後半の「4」の部分は発声されないのだ。

「4」が発声されないということは、発音は「21」となる。また、「21」だからといって意図的に下り調子にする必要はない。第一声と対称になる「低く平らな音」というイメージで発声した方が自然な発音になる。このように、第三声は「低い音」と認識する方がより現実に即している。

第一声から第四声まで、第三声を除く声調はすべて高い音か、もしくは高い音が特徴になる音なので、低く発音すれば取り違えられることはない。第三声は低い音、と覚えておけば良いのだ。また、このように考えれば第一声から第四声は「高・低高・低・高低」となり、覚えやすくなる。一石二鳥であろう。

このような第三声を「半三声」と言うこともある。後半部分が欠けるので「半」三声である。うまい表現だと思うが、ここでは一歩進めて「半三声」を第三声と呼び、第三声を「長三声」と呼ぶことを提唱したい。学術的には無理があるのだろうが、単に中国語を身につけるだけなら、こちらの表現の方がわかりやすいのではないだろうか。

また、「214」となる場合も意識して音を上げる必要はなく、低い音を出してから最後に力を抜く感じで発音すれば自然にいい感じの高さにまで音が上がる。第三声は実に簡単なものなのだ。

これは余談になるが、中国語発音教育における第三声の扱いは変遷を続けている。実態に即していなかった第三声において、後半部分が省略された第三声を「半三声」と定義することから始まり、実践の上では「半三声」こそ真の第三声と言うようになった。最近は第三声を説明するのに、ストレートに「低い音」というケースもあるようだ。

第二声

第二声は上がり調子の一本の音、ということで、第三声のような複雑な変化を見せないこともあり、理解しやすい。ただし、「わかる」ことと「できる」ことが別物であるように、必ずしも第二声が簡単であるとはかぎらない。理解しやすい分、かえって日本人をして第二声を不得手とさせているような感すら覚える。

第二声は意識して発音する分には簡単である。上げればいいのだから。そして、第一声と第四声も簡単だ。結果として声調の練習は理解しづらい第三声に集中することになる。

実は、ここに落とし穴があるのだ。

第二声は尻上がりに上がる音であるため、他の声調に比べエネルギーが必要になる。坂道を上がるのに必要になるエネルギーが平地を行くのに比べ大きくなるのと同じ理屈だ。

そして、人は往々にしてラクをしようとする傾向がある。座る方が立つ方より楽なので、座席があれば座る。もし横になることができるのなら尚のこと.....である。発音もこれに同じく、ラクをできるならラクをしようとする傾向がある。

このため、第二声でも無意識のうちにラクをしようとしてしまう。我々日本人が中国語の発音においてラクをするということは、日本語に近づくことを意味する。トーンが存在しない日本語の発音に近づくのだ。

先の五段階表記では、第二声は「35」となるが、知らず知らずのうちに「34」になり、さらには「33.5」に......といった感じで、かぎりなく平坦になってゆく。本人は「35」で発音しているつもりなのだが。

声調については往々にして難しいとされる第三声の方に気が行ってしまい、第二声はおろそかになりがちだ。さらには母音子音、文法、そして会話の内容……実践の会話においては、第二声の上がり具合への配慮などは後回しにされてしまい、結果として平坦な、日本人的な中国語になってしまうのだ。

おまけに日本人の声量は全体的に見て中国人に比べ小さいので、第二声の弱さが余計に目立つ。第二声のような骨太な発音を無意識の中で発声し切るのは、日本人には簡単なことではないのだ。

この問題を克服するには、特に入門・初級レベルにおいて、テキストを朗読する際に、第二声を強調して発音することが最も手っ取り早く、且つ効果的な方法だと思われる。中級上級レベルになってしまうと発音が固まってしまう上、テキストの朗読のような学習方法は比重が小さくなるので、矯正は難しくなる。早期のうちに、徹底して喉に第二声を刷り込んでおく方が良いであろう。

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Time:
2013-06-07 Last modified: 2013-07-07