「の」「の」「の」……中国に氾濫する日本語の「の」

中国でスーパーなどに買い物に行くと、よく変な日本語でいっぱいの商品に出くわします。日本では“抵制日货”(日本製排斥)のニュースが伝わっているので意外に思われる方も少なくないかもしれませんが、実際のところ日本製の評価は高く、且つ国産品の評価が低いので、なんちゃって日本語で包装して売ろうという商人がゴマンといるのです。

一方で、包装まるごと日本語ではなく、商品名の中に日本語を使うことで、何となく日本製っぽいの雰囲気を醸し出している商品も存在しています。その中でも特に目立つのが「の」。格助詞の「の」です。

例えば……食品大手「康師傅」の飲料品「鲜の每日C」。日本人に言わせれば「新鮮な毎日/毎日新鮮」ってなところだろう、と思うのですが、そこはあくまで中国人を対象としたマーケティングですから。販売元は中国では知らぬ者はいないであろう食品メーカー「康師傅」。この商品を企画した際、上海で日本ブームが起こっていたのに乗じたそうです。

まぁ康師傅は台湾企業だから、と言われそうですが、純正の中国企業でも「の」を全面に押し出しているところがあります。化粧品会社の「東洋の花」なんていい例ですね。正式名称は“东洋之花”ですが、その商品にはデカデカと「東洋の花」と印刷されています。

ちなみに中国語の“东洋”は日本の別称で、日本語の「東洋」とは別の意味になります。中国から見たら日本は東の海にある国ですから。“东洋人”は「日本人」、“东洋货”で「日本製品」となります。ちなみのちなみに“南洋”は「東南アジア」になります。シンガポールの南洋理工大学の「南洋」は恐らくこの意味から名付けられたものではと思います。

「の」が氾濫する訳

「の」は街中でもたまに見かけます。雑貨や衣料品店の類が多いようです。しかしながら、一番よく目にするのは何といってもインターネット。試しに百度で「の」を検索するとこうなります。

「の」「の」「の」……検索ヒット数もMAXまで振り切れています。Googleで検索すると、中国語簡体字を選択しても日本語のサイトが上位表示されてしまいますが、百度の場合は中国語簡体字サイトが優先されるので、「の」の氾濫を見て取ってもらえると思います。

では、なぜここまで「の」が氾濫しているのでしょうか。かる~く考えてみることにします。

1.「の」=“的”“之”

中国で氾濫する「の」を見ていると、明らかに中国語の“的”や“之”を「の」に置き換えて使っています。ここから見て取るに、「の」を使う中国人たちは、日本語の「の」を中国語の“的”や“之”に相当するものだ、と考えているのでしょう。

確かに両者は文法上共通するところが多いのですが、語感までイコールという訳ではありません。日本語の語感で中国で目にする「の」を含む表現に違和感を感じるのはこのためです。そんなときに「の」を“的”や“之”に置き換えて中国語として読むと、往々にしてスムーズに通ります。

ちなみに言葉とは面白いもので、「の」を含む言葉を見ると、脳は自然と日本語で処理しようとします。そこで違和感を感じ、“的”や“之”に置き換えて読みなおすと、良い感じになるんですね。

2.日本のブランドイメージ

これは冒頭でも触れたものですが、中国企業が自社製品について、信頼性が高く、またブランドイメージの高い日本製品を騙るケースは昔から存在しています。包装や名前を日本チックにしたりすることで、それが日本製っぽいイメージを消費者に与える訳です。

そこで乱用されているのが「の」。ひらがなを一つ使うだけで日本語っぽくなりますし、文法的にも連体修飾語を表す助詞“的”や“之”に置き換えてやれば済むので、使いやすいのでしょう。

ちなみに日本からの輸入品でも、下手に中国語の説明書きをつけるよりも、オール日本語のままの方が有難がれたりします。中国では、日本企業は日本国内に一流品を、欧米諸国に二流品を、その他の地域には三流品を流すとまことしやかに語られているので、下手に中国語の説明書きを付けたような中国人向け製品よりも、日本国内流通品を直接持ち込む方が喜ばれます。中国人にお土産を買う場合は、このあたりを念頭に置いておくと良いでしょう。

3.インターネットの普及

「の」を多用するのはネット世代ですが、これはインターネットによって日本語に直接接触する機会が増えていることも影響しているのでは、と思います。中国社会における日本のアニメや小説の影響についてはよくレポートされていますが、このようなサブカルチャーに興味を持った人が、インターネットで関連の情報に接していくうちに、「の」が脳内に刷り込まれていったのではないのでしょうか。最近は『進撃の巨人』が中国でも流行しているので、「の」が更に普及していくかもしれません。

ちなみに中国のネット用語には、日本語に由来するものも少なくありません。日本語に由来するネット用語の流れは、まず日本から台湾・香港に入り、そこから中国本土に流入する、という流れが顕著でしたが、昨今は直接日本から流入しているものも増えているようです。

近代以来日中の文化の流れは日本から中国へ流れる状態が続いていますが、前近代のように中国から日本に流れる時代はまた訪れるのでしょうか。

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