日中同形異義語 in「学校」

日本語と中国語は文字として漢字を共有していますが、同じ語形にも関わらず意味が違う語彙も結構あります。微妙に違うものもあれば、まったく別の意味であるものもありますが、その中でも一群の「グループ」内でズレていて面白いものがあります。「学校」なんかがその一例です。

“中学”=「中学」「高校」

「小中高大」……日本語では小学から大学までの教育課程をこのように略しますが、仮にこれを借りて中国の小学から大学までを表すのなら“小中大”もしくは“小中高”になります。一個足りないのでは、と思われるかと思いますが、中国では、日本の中学高校共に“中学”なのです。

すごい、中国は中高一貫教育ですか……と思われた方、残念ながら違います。教育制度は日本と同様に、中学と高校は別物です。中国で日本の中学に相当するのが“初级中学”略して“初中”、高校に相当するのが“高级中学”略して“高中”です。だから、日本語の感覚で“中学”なんて言っちゃうと、中学なのか高校なのかは伝わりません。

“高校”と“大学”

そしてもう一つ面白いのが「高校」。中国語の“高等学校”略して“高校”は「大学」を指します。日本と同じく“大学”という語彙もあり、これも「大学」を意味します。中国語では“高校”も“大学”も「大学」なんです。

ただし、両者はイコールではありません。“大学”はいわゆる総合大学のことで、単科大学や日本の短大のようなものは“大学”には含まれません。一方の“高校”は大学レベルの学校の総称で、総合大学であろうが単科大学であろうが、すべて“高校”になります。

また、使われ方も異なります。例えば、北京大学とか南京大学というように、学校の名前としては必ず“大学”を使います。これに対して“北京高校”は「北京にある大学レベルの学校」の意味になります。

では、“大学”ではない“高校”である単科大学の名前はどうなるのか、というと、“大学”の代わりに“学院”という語彙を使います。例えば、“北京第二外国语学院”というように。

総合大学の中の学部についても“学院”を用います。例えば、“农学院”(農学部)とか。ただ、学部については“系”ということもあります。

“学院”と“系”の関係は、前者が上で後者が下です。あえて言えば、大きな学部の中の小さな学部、みたいな感じでしょうか。そういう意味では、“系”は「学科」と訳す方が好ましい場合もあります。厳密に言えば学部ですが、日本の学部よりも細かく、学科よりも規模が大きい存在、という感じでしょうか。“系”の下は“专业”です。一般には「学科」と訳しますが、「専攻」とした方がいい場合もあります。

語彙とは関係のない話になりますが、中国においては、“大学”と“学院”では行政上の階級が変わってくる(“大学”の方が上)ので、多くの“学院”(単科大学)は“大学”を目指して拡張を急いでいます。だからといって、学部を増やせば自動的に“大学”になる訳ではなく、上級部門の認可が必要になるのですが。そんな訳で、“学院”であっても複数の学部が存在しているところもたくさんあります。

ついでながら「大学院」は“研究生院”と言います。そこで学ぶ「院生」は“研究生”です。中国語でそのまま“大学院”“院生”と言っても通じないのでご注意ください。

入試試験

話を戻します。“高”が大学を意味するので、大学入試は“高考”となります。“大考”という表現は存在しません。総合大学・単科大学の区別なく統一試験を実施しているためです。敢えて例えるならば日本のセンター試験みたいな感じでしょうか。美術や音楽など芸術系の大学は大学単位で技術試験を行いますけどこれはまた別物です。

一方の高校入試は“中考”といいます。“初中”は義務教育なのですが、人気中学を目指すならば試験を受けなければいけません。もちろん公立なんですが……。このあたりは日本人的には理解し難いところかもしれません。

いわゆるエリート校は“重点初中”“重点高中”と呼ばれ、政策的に優遇されています。中国でも中学は義務教育なので、日本のように学区制が敷かれていますが、“重点中学”は成績優秀者を集めるため、学区内でも入試試験を実施し、また学区外からの生徒も受け付けます。この競争は熾烈で、中国の教育パパ・ママたちはここを目指してカネをつぎ込むのです。

このようなエリート校でも学区制が敷かれていることを利用して、エリート校の学区で不動産を購入して戸籍を移すことも行われています。このような物件は“学区”と呼ばれ、ベラボウな価格が付いていますが、それでも売りに出されると即売してしまいます。学区内でも入試試験があるのなら意味がないのでは、と思われるかもしれませんが、学区内の方が競争が緩いのです。

ちなみに中国ではその悪名高き固定的な戸籍制度のため、賃貸では所属する学区の学校に通うことはできません。また、不動産を購入して引っ越してきたとしても、例えば北京のような大都市は戸籍制限が厳しく、地方出身者は戸籍を転入させることができません。また、北京戸籍を持っていて転入することができるとしても、数年の居住実績があって初めて当該学区の資格を取得できるなど、とにかく規制だらけなのですが、それでも売れるんですね。

小一、中二、高三……

最後にもう一つ。日本では、例えば小学校一年生のことを「小一」と略称しますが、これは中国でも同じです。ただし、「中一」「中二」「中三」についてはそれぞれ“初一”“初二”“初三”となります。“初中”ですから。これを受けて、“高一”は日本の「高一」と同じく高校一年生を指します。もちろんこの“高”は大学を意味する“高校”ではなく“高中”を意味します。

面白いのが大学生。日本語では「大一」とは言いませんが、中国では“大一”で「大学一年生/大学一回生」を指すことができます。二年以降も同様です。もっとも、最近は日本でも「大二病」という表現が生まれているので、そのうち大学についても中国と同様に「大…」という表現が定着するかもしれませんね。

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