声調の重要性

声調が重要になる理由の一つに、同音異義語が多いという中国語の特性があります。

子音に多少問題があっても声調が正しければ結構通じるのですが、声調を間違えると、途端に通じなくなってしまいます。

これは、中国語は同音異義語が非常に多いためで、声調を間違えると他の漢字と容易に混同されてしまうからです。

例えば、漢数字の「一」は「yi」と発音します。手元の辞書で「yi」の発音を持つ漢字の数を数えてみたところ、155個ありました。

もちろん使用頻度の低い漢字も含まれていますが、声調を間違うと、まったく別の意味に取られてしまうこともしばしばあります。

涼しい場所はいくら?

声調については私にも多くの失敗経験があります。例えば、留学中のある夏の暑い日に中国人の友人と出かけた時の事です。

あまりに暑いので、少し涼める場所で休憩しようということになり、公園へ入っていったのですが、なかなかいい場所が見つからず、二人してきょろきょろと辺りを見回していました。

それが変に思われたのかどうか分かりませんが、通りがかった人に「何を探しているんだ」と聞かれたので、涼しい場所と答えるつもりで、「涼快的地方」(「涼快」は涼しい、「地方」は場所の意)と答えたのですが、怪訝な顔をされてしまいました。

友人が笑いながら改めて「涼快的地方」と言うと、その人は納得した顔をして去って行きました。そのころの私は既に中国語をほぼ習得している段階でしたので、友人の発音を聞いて自分の何が間違っていたのかはすぐに分かりました。

「涼快的地方」をピンインで表すと「liang(2) kuai(5) de(5) di(4) fang(5)」(括弧の中は四声、(5)は軽声を表す)となります。

一方、私は文頭の「涼」(「liang(2)」)を第二声(上がる声調)ではなく、第三声(一度下がってから上がる声調)で発音していたのです。

言い訳じみますが、その日は本当に暑く、暑さで疲れ果てていたので、発音に力がなく、第二声が上がらなかったのです。

そして、「liang」を第三声で発音すると、「涼快」が全く別の意味の単語に変化します。 「liang」を第三声で発音すると、「両塊」、すなわち「2元」(元は中国の通貨単位)になってしまいます。

つまり、何を探しているのかと聞かれた私は、「2元の場所」と答えていたことになります。怪訝な顔をされるのも無理はありません。

中国語における発音や声調のブレに対する許容範囲

ここで考えておきたいことは、実際にはどれぐらいの発音・声調のブレが許容されるのか、ということです。

中国人でも地方によってはかなり訛があり、発音、声調共に標準からかなり外れる場合もありますが、コミュニケーションはおおかた成立しています。

このためか、人によっては、「二声と三声を区別しなくても通じるから大丈夫だ」、という乱暴なことを言っている人もいます。

私は研究者ではないので客観的な裏づけがあるわけではありませんが、この許容範囲は、状況に応じて幅があると考えています。

訛の重い地方出身者の中国語は、外国人にはほとんど判別不可能ですが、中国語ネイティブスピーカーは多くの場合、それを聴き取っています。

ネイティブだから当然だ、と言ってしまえばそれまでですが、ここでは一歩踏み込んで考えてみたいと思います。

通常、会話にはその会話が行われる状況が必ず伴います。居酒屋でビールをがぶ飲みしていた客がふらふらと歩いてきて問いかけてくる場合、おそらくトイレの場所を尋ねてくることが推測できます。

また、街頭で地図を持った外国人が話しかけてくる場合、十中八九道順を聞いてくるのでしょう。

このほかに考えられる要因として、訛の重い地方出身者の発音・声調パターンに習熟していることが考えられます。

地方の訛が原因となる場合、その発音や声調はその地方の出身者共通のブレとなります。例えば、身の回りに福建省出身者の人がいたとします。その人の発音・声調に慣れてしまえば、どの発音がどのように変化するのか学習できるので、別の福建省出身者と会話するときに、その学習した知識によって、内容を判別できるのです。

さらにもう一点、外国語として中国語を学ぶ学習者にとって重要な要因が考えられます。それは、中国人の場合、どれだけ訛が入っていても、文法や語法のブレはほとんどないという点です。

先ほど、会話はその会話が置かれている状況からある程度推測可能であることをお話しましたが、これに加え文法・語法が正しければ、会話内容を推測し、聴き取ることはそれほど困難なことではありません。

一方、外国語として中国語を学んでいる者の場合、文法や語法に誤りを犯すことはよくあります。これに加えて発音や声調がおかしい場合、全く別の意味で取られてしまうことが容易に起こり得ると思われます。

このため、文法・語法が上達すれば、発音や声調に多少問題があっても聴き取ってもらえるかもしれませんが、文法・語法に問題がある場合、発音・声調にはより一層気を遣わないと通じなくなる可能性が高くなります。

いずれにせよ、中国人だって訛っているのだから、自分の発音がいいかげんでも大丈夫だろう、という発想で中国語学習に取り組まない方がいいということです。

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