中国語レベル学習項目重要度一覧表:リーディング編

ここでは、『中国語レベル学習項目重要度一覧表』における「リーディング」の項目について解説する。表の見方は『中国語レベル学習項目重要度一覧表』を参照。

一覧表(リーディング部分)

  入門 初級 中級 上級
リーディング ▽▽▽△△ ◯◯◯◎◎◎◎◎◎◎ ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎

リーディングの特質

日本人にとって、最も特殊な項目となるのがリーディングである。その特殊性は、日本語と中国語が文字として多くの漢字を共有しているところに由来する。このため、日本語を母語とする日本人にとって、漢字で表記される中国語のリーディングは、他の言語を母語とする者に比べ格段に容易となる。

これを裏付けるのが中国政府主催の中国語能力試験「HSK」試験である。HSKでは日本人のリーディングパートの成績の良さが際立つのだ。HSKは日本人に限った試験ではないため、日本人の中国語リーディング力が相対的に高いことが浮き彫りになっている。

我々日本人にとって好ましいことなのは確かなのだが、裏返しとして相対的に難しくなるリスニングに注意が移り、リーディングが疎かにされてしまうことも多い。これが日本人中国語学習者の落とし穴になることすらあるのだ。

語感を磨くリーディング

なぜ落とし穴になるのか。それは、リーディングと言語力には深い関係があるからだ。日本に限らず、世界主要各国に共通する教育問題として国語力の低下というものがある。この原因として挙げられるのが活字離れである。本を読まなくなったから、国語力が低下している、という話だ。

リーディングは国語力向上に大きな効果を与えるが、これは外国語についても同じだ。母語では無意識のうちに身につくリスニングや会話が重要な学習項目となるので、リーディングの重要性が相対的に低くなるのはやむを得ないが、単なる日常会話レベルを超える中国語を身につけたいのならば、リーディングは不可欠なのだ。

では、リーディングで身につける能力とは何か。「言語力」では包括的過ぎるので、ここでは敢えて単純化する。それは「語感」である。

「語感」とは文字通り言葉に対する感覚、感性である。言葉の細かい用法や意味の違いなどを区別する感覚を指す。意味は通じるが、表現がちょっとどこかおかしい、という感覚は語感によって生まれるのだ。この感覚は、その言語に大量に接することでしか養うことができない。文法のように規範化するには余りにも細かすぎるため、理論的に学習することができないのだ。

言葉に接することはリスニングでも可能だが、その効率はリーディングには遥かに及ばない。リスニングは音として流れ、消えていくので、多少の瑕疵があってもさほど気にならないが、リーディングは文字として残るため、わずかな瑕疵であっても目立つからだ。

リーディングの種類

一言にリーディングと言っても、その形態は一様ではない。同じくインプット系に分類されるリスニングと同様に、丁寧に一文一文読んでいく「精読」と、読み流して量をこなす「多読」に大別される。

このうち「精読」は、いわゆる国語や英語の授業のようなやり方のことを言う。新出単語、文法を辞書や参考書などで確認し、一文一文、一語一語丁寧に読み進めていくやり方だ。一方の「多読」は、小説や新聞を読むように、文章を読み流していく学習方法である。知らない単語があっても辞書などは引かずに、前後の文脈などからその意味を推測して内容を読み取っていく。

一般に、精読は初級で行う学習法である。このレベルでは基礎力をつけることが最優先なので、文法を確認しながら丁寧に読み込んでいく。この精読とテキスト文のリスニングが初級における学習法の主軸となる。一般に初級者向けに編纂されるテキストの多くが、この形態を採用しているのはこのためである。したがって、精読は特に意識しなくても、自然と行うことになる。多くのテキストが精読の形態を取っているからだ。

一方、中級以降は多読が中心となる。このレベルでは基礎は完成しているので、少しでも多くの文章に接して、文法として規範化されていない語感を身につけなければならないからだ。しかしながら、多読用のテキストは少ない。あるとしても、それは精読から多読へ移行するための橋渡しを目的としたようなもので、その数も限られている。よって、学習者が意識して小説や新聞などを読んでいく他ないのだ。

一般に言われるところのリーディング学習は、この多読を指す。『中国語レベル学習項目重要度一覧表』で表記しているリーディングの項目も、多読を中心とした学習について評価したものだ。

表に示されているように、多読の重要性は中級から上級まで、一貫して高い重要度を維持する。これは、中上級における語感の重要性を表しているのだ。